2億ドルであなたの会社を買いましょう、というオファーを断る人はどんな人物だと思いますか? その答えは、「革命の中心にいる、とても明確なビジョンを持った人」です。 26歳のマット・マレンウェッグは テキサス州ヒューストンの コンピュータエンジニアの父親と専業主婦の母親の2人目の子供として育ちました。 その頃の彼は「優良児」と言う言葉がぴったりで 高校ではボーイスカウト、ジャズアンサンブルのサックス奏者。 日曜にはカトリック系の教会に通っていました。 マレンウェッグ氏は自分のことをこう語ります。 「運営していたテクノロジーやコンピューター系のクラブにいるとき以外は内気だった」 「Palm や Linux ユーザーグループ、高校ではテクノロジークラブをやってましたよ」 WordPress をスタートして8年。 マットの会社 Automattic は65人の社員を持つまでに成長しました。 でもサンフランシスコのオフィスにいつも来るのはほんの数人です。 マット自身もミーティングの時はここにやってきますが、 ほとんどの社員は50以上の異なる都市にある自宅で働いています。 Automattic の主要プロダクトは WordPress です。 2500万以上のブロガーがオンラインで記事を公開するために使っています。 WordPress.com は世界で最もトラフィックの多いサイトの上位20位にランクインしています。 NY タイムス、ウォールストリートジャーナルマガジン、 有名ゴシップサイトのペレズ・ヒルトンさえも ネット上で成功を得ることができたのは、もとはといえば テキサスからやってきたこの物静かな男の子のおかげなのです。 WordPress のポイントは、プログラムができない人にも簡単に使えるという点です。 マレンウェッグ氏は、会社の成功の秘訣は値段のつけ方にあると言います。 僕達のプロダクトは無料で使えるものがほとんどで 有料のプレミアム・アップグレードもあります。 でもそれを大きな「お金を集めるツール」だと見てはいません。 無料ユーザーが増えるたびにいつも 有料アップグレードを売るチャンスだと思うわけではないんです。 無料という部分をとても大事にしているんです。 Automattic の目的の一つは世界中のパブリッシングを民主化することだからです。 そして、世界は WordPress に大きく反応しました。 WordPress ファンは WordCamp と呼ばれるローカルの集まりを自分たちで開催しています。 何百人もの人たちがこのソフトウェアについて 語るために集まります。 僕らの最終的な製品は Web サイトを作るために使う単なるツールです。 でもこのツールを作り出しているプロセスは ムーブメントと呼んだほうがしっくりきます。 たくさんの人が参加していて しっかりした哲学や意見があり そして誰もが楽しんで協力できるのです。 マレンウェッグ氏の考えと影響は 世界中に広まっています。 非常にたくさんの人がブログに共鳴しています。 マクラメづくりのサイトから 大物たち、例えば CNN のアンダーソン・クーパー、 eBay、 フォード社まで。 美しく素晴らしいサイトがどんどんできています。 中小企業から、フォーチュン 500 企業までも。 どんなユーザーでも WordPress で美しいサイトが作れますが プログラミングスキルがあれば、さらに一段階上のレベルへ高められます。 なぜならこのソフトウェアはオープンソースだからです。 ユーザーはコードを変更や追加したり、新機能を加えたりすることができます。 WordPress ソフトウェアは無料ですが、 ライセンスには(配布する場合は)変更を誰でも手に入れられるようにすべきと書かれています。 コピーライトではなくコピーレフトです。 多分 WordPress を始めてしばらく経つまで オープンソースムーブメントの哲学的な基礎を完全には理解していませんでした。 だいたいそれと同じ頃に 有名なエッセイ、エリックレイモンドの「伽羅とバザール」や リチャードストールマンの作品、GPL の4つのフリーダムなどを だんだん知るようになっていきました。 GPL(一般公衆利用許諾契約書)とは 共有とコミュニティの向上を促進するための約束事です。 Firefox ブラウザや Wikipedia などのプロジェクトの背景にあるものです。 GPL の約束する自由の一つには、 ソフトウェアをどんな目的にでも使って良い、というものがあります。 つまりそれには僕が同意しないような目的も含まれます。 WordPress をスパムや悪意を持ったサイトに使ったり ネオ・ナチサイトに使ったりしている人もいます。 最初のリアクションは、「むかつくなあ」でした。 そうですよね、心と魂を込めて作ったものが 道徳的に憎むべきような目的に使われているのを見て嬉しいことはないでしょう。 でも、最終的にはソフトウェアをどんな目的にも使える自由のほうがもっと大事なんです。 僕が誰かの利用目的に納得できないという事実よりも。 何千万人もの人が WordPress を使っていますが、 Automattic が WordPress ライセンス違反に関して法的な措置を取らざるを得なかったことは 驚くべきことに過去にまだ一度しかありません。 その他の意見の不一致はすべて コミュニティでの話し合いによって解決してきました。 だって法的な状況では誰も勝者にはなれませんからね。 いつもすごく時間がかかるし、 僕らのプラットフォームを使って何かをつくろうとしている人たちと 立ち入ってしまうには残念な状況といえます。 でも最終的には、9割9分はコミュニティのソーシャルなやりとりによって解決に至ります。 誰もが認めるワールドワイドな成功を集中に収めたマット。 彼はユーザーに会うことに無上の喜びを感じると言います。 WordPress ユーザーに出会うこと以上に大好きなことはありません。 僕も含め、同じ考えを共にする人たち。 全然違うところに住んでいたり、背景や言語も違う人たち。 でもひとつ同じ思いを持っている。なんだかいいですよね。 世界中のどこへ行っても WordPress ユーザーに会えるんです。 WordPress がどんなふうに彼らの人生に影響を与えたのか、 物事に対する姿勢や、パブリッシングの手法、 時には生計を立てる手段をどのように変えたのかというストーリーは 僕のモチベーションの源となります。 そういう話を聞くことで、今日もがんばろうって思えるんです。